盾を持って出かけよう。武器などいらない。攻撃する気などさらさら無いのだから。 何より重く大きなこの盾は、片手ではとても扱えない。わたしはいつものように盾を両手で持ち上げた。大人の男の全身を完全に覆い隠してしまえるほど大きなこの盾が、実戦で用いられることはまず無い。誰もがこの盾に一度は憧れ手にするが、誰もがその大きさゆえ役に立たぬと手放してゆく。この盾にはちょうど目の高さのあたりに前を覗く窓がある。鋼鉄で四角く縁取りされた窓から見える景色には、この世のすべてが安全に映る。
わたしは盾を構え、窓から前方を見据え、全身を隠しながら早足で進む。わたしが先を急ぐのには理由がある。わたしが武器も持たず、丸腰で歩いているのに気づくと、道行く人々はわたしを見て嘲り、笑い、またあるものは顔を歪め悲鳴をあげる。だからわたしは人目を忍び先を急ぐのだ。
目的地の近くまで来た所で、背後で女性がわたしを見てくすくすと笑っている。このあたりは若者たちの社交場となっているため人の出入りが激しい。ふん、笑いたければ笑えばいい。わたしはもう武器など持たん。他人を傷つける剣などわたしにはもう用は無い。わたしはかまわず先を急いだ。
「待ちなさい」
男の声が背後で響いた。まさかこんな所で盗賊か。わたしは盾を構えて向き直った。そこには屈強そうな男が2人、いぶかしげな顔で立っていた。
「こちらに来なさい」
それにしても鎧も身に着けず、ずいぶんと身軽な格好のやつらだ。賊など所詮こんなものか。あれは賊の名だろうか。POLICEと胸に刺繍がある。おかしな名前だ。戦いを見物するため通行人が集まってくる。
「そのダンボールを渡しなさい」
もう一人の賊がわたしの背後に回り込んでいた。いや違う、もう一人いたのかしまった!そう思った瞬間、賊はわたしの盾を片手で軽々と奪った。馬鹿な!鋼鉄製だぞ!なんて力だ!争いに怯えてか女性が悲鳴をあげている。わたしは即座に連中から間合いを取る。どうやら連中は兄弟のようだ。刺繍の名前が同じだ。慣れた連携にも納得がいく。わたしの置かれた状況は危機的だ。わたしは武器は持っていない。あるのはあの盾だけだったのだ!
「きみ、服を着なさい」
賊はじりじりと間合いを詰めてくる。おかしな武器だ。なんて短い棒なんだ。こんな頭のおかしな賊に捕まったら終わりだ。無様だが逃げるしかない。わたしは連中に背を見せ駆け出した。見物人たちは歓声を上げて道を開ける。なるほどどうしてわたしを励ましているつもりらしい。
世の中も捨てたものではない・・・!
omoshirokatta.
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